海のみち

10月19日、神戸港から宮崎行きのフェリーに乗った。
予約していたのは、雑魚寝スタイルの二等船室。
隅っこのマットレスと毛布をキープしてから、ひとまずデッキへ。

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〈神戸港〉


出港を告げるアナウンスが響く中、全長170メートルの巨大な船はゆるゆると海に滑り出していく。目の前に広がるのは、色とりどりに煌めく神戸の夜景。はしゃいでいた子どもや若者たちが去ったあと、いつまでも見とれていたのは男性の乗客ばかりだ。
肌寒い風にあおられて、何を思って佇むか。ろまんちっくなのか。

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お腹がすいたのでレストランに行く。そこそこ美味しいバイキングの夕食をすませて、展望風呂とやら(何も見えなかった)に入浴。再びデッキに立ったのは、夜の8時半頃だった。
船内の案内画面によると、船は紀淡海峡を抜けて紀伊水道を進んでいるところだ。ちなみに、神戸から宮崎までは約500キロである。

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漆黒の海の向こうに、ぽつぽつと灯りが見えた。おそらく四国、もしかしたら淡路島。紀伊半島の方向にもかすかな灯りが見えたが、写真には撮れなかった。残念。

〈紀伊水道〉

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船室で仕事の資料を読んでいる時、ふと顔をあげたらおばあさんと目があってしまった。「こんばんは」と挨拶して言葉を交わすうちに、宮崎は故郷だと教えてくれた。80歳だと言うが、美人で若々しい。老人と話すのは好きなので愛想よくしていたら、女手ひとつで二人の息子を育てあげたという怒濤の苦労話に突入してしまった。「あんたのお母さんは夜の蝶やで」と、幼い息子に言った近所の意地悪女のことが今でも腹立たしい、と顔をしかめて繰り返す。
「いますよねぇ、そういう人」と相づちを打つ。
自分がされたことなら忘れても、子どもを傷つけられた悔しさは50年たっても忘れないのだろう。

なんだか長丁場になりそうだったので、売店で柿の種と缶ビールを仕込んで戻ると、彼女はごろんと横になってたくましい寝息をたてていた。さすがにお年寄りは寝るのが早い。

翌朝、照明がつく前からガサガサと派手な音を立てながらナイロン袋をまさぐって、おばあさんが身繕いを始めた。やっぱりか…。
ちょっとムカついたが、早起きしたおかげで日向灘(ひゅうがなだ)の朝日を見ることができた。音も録ったけれど、紀伊水道と同じかもしれん。

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〈日向灘〉

朝の8時過ぎ、宮崎港が見えてきた。
この旅の目的は、神楽(かぐら)の伝統を守り伝える方々に話を伺って記事に書くこと。
ご縁を頂いたことに感謝しつつ、古代から続く黒潮のみちを通って九州いり。

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〈 みちとおと日本      文•写真/北浦雅子 〉

「みちとおと(道と音)」とは熊野古道•中辺路を取材して、私たちが制作したウェブサイトのことです。「みちとおと日本」は、その続編。サウンドマップの縮尺を広域にすると、この記事の取材地に音のアイコンがあります。現地を探してクリックしてみてください。

 

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