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九州山地の銀鏡神楽

12月14日、またしても宮崎県へ。
今回は銀鏡(しろみ)神社の夜神楽を見るのが目的なので、ヒートテックはもちろん思いつく限りの防寒着を身につけて寝袋や毛布、懐中電灯を持参して臨む。

銀鏡に到着したのは、午後3時頃。山の谷間に77世帯ほどが暮らす、ひっそりした集落だ。まずは銀鏡神社に参拝。後ろにそびえる龍房山が、銀鏡神社のご神体だとか。(熊野から勧請した分霊を、山上に祀ったことが信仰の起源とも)

神さびて、美しい社。DSCF4233

続いて銀鏡神社の末社のひとつ、宿神三方稲荷神社に向かった。「面様迎えの行列」を見るためだ。大祭の当日は集落にある5つの末社から、それぞれご神体として祀られている面がやってくる。(その面をかぶって舞うとき、神が降臨するという)

2キロほど歩くと、山肌に小さな社が見えてきた。神職や社家の方々が集まって神事を執り行っている。神事が終わると面を背負い、笛やホラ貝を吹きながら銀鏡神社に向けて行列が始まった。

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そろそろ日も落ちてきた。「山間部の日没は早いな」と思いながら、お囃子に合わせてゆっくり後ろをついてゆく。神社の近くまで来ると、集落の人たちや見物人たちが橋の上で行列を待っていた。ここでお面様たちが合流し、大祭の舞台である銀鏡神社に入っていく。

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とっぷり日も暮れた頃、贄(にえ)が祭壇に奉納された。イノシシの頭だ。その年によって数は違うが、今年は五体。狩猟で命をつないできた銀鏡では、イノシシは神である。「シシは供えもんやない。神格や」と地元の古老に私は聞いた。シシたちは鼻先を空に向け、ずらりと並んで氏子たちの舞を見る。

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舞が始まったのは午後8時頃。屋台でたこ焼きとお酒を買って座敷にすわる。畳と屋根があるだけの、あけっぱなしの建物なので冷えた風がぴゅうぴゅう通り抜けている。
見学者は毛布などにくるまって、それでも震えながら見るのだが、舞人たちは屋根もない外神屋で薄そうな白い衣に白袴。「寒いだろうに」と思うと、私もまた寒い。夜神楽見物は、やっぱり過酷…。

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そうこうしているうちに神々も降臨。
集落のあちこちで祀られている神々が、次から次へと出現する。
面をつけて中心で舞う神を、人々は敬意を持って迎え、共に遊ぶ。

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午前3時頃、「綱神楽」という演目が始まると、数ヵ月前にインタビューさせてもらった古老が颯爽と登場した。片手に真剣を持ち、「はっ」という掛け声とともに蛇に見立てた縄を何度も飛び越える。たしか御年81歳。一睡もせず、氷点下の寒風の中で気迫たっぷりだ。
「たましい見せにゃ」とおっしゃっていたが、そうか、こういうことか。
見せてもらったかも。

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朝まで起きていようと、かぶりつきで意気込んでいたのに、空が薄明かるくなってきた5時過ぎにとうとう寝落ちしてしまった。「眠ったら凍え死ぬぞ」と警戒していたにもかかわらず、後ろにひっくり返って寝たもよう。次に気が付いたら、すっかり夜が明けていた。
よかったよ、目が覚めて。
そしてむっくり起きあがった瞬間の、目の前の光景がこれ。

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朦朧とした頭で「信じがたい…」と思う。
極寒の中で一晩中舞っているってすごくないですか。どう考えても。

ぼんやり眺めていたら、これまで見た舞の記憶がだんだん甦ってきた。
闇の中で見た神秘的な光景は、現実だったのだろうか。この世とあの世のあわいに落ち込んだようで、夢かウツツか、もうよくわからない。

すっかり陽がのぼって昼を過ぎた頃、最後から二番目の演目「ししとぎり」が始まった。イノシシ狩りの様子を狂言劇に仕立てたもので、老夫婦のやりとりがほのぼのと笑いを誘う。「ほいほーい」という、とぼけた掛け声を聞きながら、翁の股間にぶらさがった大根を凝視。
この大根は、いや男根は「山の神」への供物である。山の神は女性だから、お好きですよねという無邪気な発想。

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ちなみに「ほいほーい」とは、猟師たちが山で獲物を追い込む時のかけ声である。この地には「ほいほーい」と言いながら山を行き来している妖怪、カリコボーズもいるらしい。

「ししとぎり」の次は「神送り」。顔の前後に面をつけ、臼を担いで歩く2人と、杵を手にして踊り歩く人が現れた。神歌を歌いながら去ってゆく様子が、なんだか切ない。神と人が共に過ごす楽しい時間は終わってしまった…。物悲しい気持で後ろ姿を見送る。神々はおそらく、山中の異界に帰ったのだろう。

神送りが終わると贄も祭壇から下げられ、その肉と米を煮込んだ雑炊、シシズーシーが観衆にふるまわれた。山の生命体を、私の中にいただく。

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〈 みちとおと日本     文•写真/北浦雅子 〉

「みちとおと(道と音)」とは熊野古道•中辺路を取材して、私たちが制作したウェブサイトのことです。「みちとおと日本」は、その続編。サウンドマップの縮尺を広域にすると、この記事の取材地に音のアイコンがあります。現地を探してクリックしてみてください。

 

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